建設DXで実現する省力化・省人化の最前線

最終更新日 2024年11月19日 by michidoo

建設業界は、他の産業と比べて生産性の伸びが低く、慢性的な人手不足に悩まされてきました。国土交通省の調査によると、建設技能労働者の約1/3が55歳以上であり、10年後には約130万人もの労働者が退職するとされています。

この深刻な人手不足を解消するために、建設業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)による省力化・省人化への期待が高まっています。ドローンやAI、ロボット、IoTなどの最新テクノロジーを活用することで、現場の生産性を飛躍的に向上させる取り組みが各地で始まっています。

しかし、建設DXの導入には、初期投資や人材育成、既存業務との統合など、様々な課題も存在します。単にテクノロジーを導入すれば全てが解決するわけではなく、現場の実情に合わせた戦略的な取り組みが求められます。

本記事では、建設業界における省力化・省人化の最前線を紹介します。人手不足の課題を解決するテクノロジーとその導入事例、そして課題と展望について解説します。建設DXが切り拓く未来の姿を、ぜひ一緒に考えていきましょう。

建設業界が抱える人手不足の課題

建設技能労働者の高齢化と減少

建設業界では、建設技能労働者の高齢化と減少が深刻な問題となっています。国土交通省の調査によると、建設技能労働者の35.2%が55歳以上であり、29歳以下は10.1%に過ぎません(2020年時点)。

団塊世代の大量離職に伴い、今後10年間で約130万人もの建設技能労働者が退職すると予測されています。一方で、若手の入職者は減少傾向にあり、人材の確保が難しくなっています。

2020年の新規学卒就職者のうち、建設業に就職したのは約2.4万人。全体の約4.7%に過ぎません(国土交通省調べ)。建設業の3K(きつい、汚い、危険)イメージや、他産業と比べて低い賃金水準が、若者の建設業離れを招いている要因の一つと考えられます。

人手不足が引き起こす問題

建設技能労働者の不足は、現場の生産性低下や工期遅延、品質低下など、様々な問題を引き起こします。

人手が足りないために残業が増え、労働者の負担が増大します。疲労や注意力低下から、事故のリスクも高まります。また、熟練工の減少により、技術の継承が困難になり、品質の低下にもつながります。

さらに、人件費の高騰により、建設コストが上昇。受注競争力の低下や利益率の悪化を招き、企業経営にも大きな影響を及ぼします。

私自身、現場監督時代に人手不足の影響を肌で感じてきました。工期に追われ、残業が常態化。熟練工の減少により、品質管理にも苦労しました。人手不足は、現場の最前線で働く者にとって、切実な問題なのです。

この問題を放置すれば、建設業界の衰退は避けられません。省力化・省人化による生産性向上は、建設業界の持続的な発展のために不可欠な取り組みだと言えるでしょう。

省力化・省人化を実現するテクノロジー

それでは、具体的にどのようなテクノロジーが省力化・省人化を実現するのでしょうか。ここでは、ドローン、AI・ロボット、IoTセンサーの3つに焦点を当てて解説します。

ドローンによる測量と検査の自動化

ドローンは、上空から現場を撮影することで、測量や検査を自動化できる有望なテクノロジーです。

従来、測量は人手による作業が中心でした。広大な現場を歩き回り、手作業で測定を行うため、多大な時間と労力を要していました。ドローンを活用すれば、短時間で広範囲の測量が可能になります。

また、ドローンに搭載したカメラやセンサーを使えば、建物の外壁や橋梁などの検査も自動化できます。高所作業にともなう危険を回避しつつ、人手では見落としがちな細部の点検も可能になります。

国土交通省は、ドローンを活用した測量や検査を積極的に推進しています。「空の産業革命に向けたロードマップ」では、2025年度までにドローン活用工事の割合を20%まで引き上げる目標を掲げています。

AI・ロボットによる施工の自動化

AI(人工知能)やロボットを活用することで、施工の自動化も進んでいます。

例えば、建設現場では、鉄筋の組み立てや溶接などの単純作業に多くの人手を要します。これらの作業をAIやロボットに任せることで、大幅な省人化が期待できます。

また、AIを活用した施工管理システムも開発されています。資材の調達から工程管理まで、AIが最適な計画を立案。人的ミスを減らし、効率的な施工を実現します。

さらに、建設機械の自動化も進んでいます。自動制御技術を用いた建機は、オペレーターの熟練度に左右されることなく、高精度な施工を実現します。

国土交通省は、2025年までに建設現場の生産性を2割向上させる目標を掲げており、AI・ロボットの活用はその鍵を握っています。

IoTセンサーによる資材管理の効率化

IoT(モノのインターネット)センサーを活用することで、資材管理の効率化も可能になります。

建設現場では、大量の資材を管理する必要があります。資材の過不足は、工期遅延や予算超過につながりかねません。IoTセンサーを資材に取り付けることで、リアルタイムでの在庫管理が可能になります。

また、盗難防止にもつながります。センサーが異常な持ち出しを検知すれば、速やかに対応できます。

さらに、資材の配送トラックにIoTセンサーを取り付ければ、配送状況をリアルタイムで把握できます。渋滞情報等を加味し、最適な配送ルートを選択することで、無駄な待ち時間を削減できるでしょう。

建設DXの先進企業であるBRANU株式会社では、IoTセンサーを活用した資材管理システムを開発しています。同社のシステムは、資材の在庫状況や配送状況をリアルタイムで可視化。資材調達の最適化を支援しています。

省力化・省人化の導入事例

それでは、実際に省力化・省人化に取り組む企業の事例を見ていきましょう。

A社:ドローンで測量作業を大幅削減

A社は、大手建設会社です。同社は、ドローンを活用した測量に早くから取り組んできました。

従来、100ヘクタールの現場を測量するのに、4人で2週間を要していました。ドローンを導入したことで、わずか2日で測量が完了するようになりました。

大幅な時間短縮により、測量コストを7割削減。また、人員を他の業務にあてることで、全体の生産性も向上したそうです(国土交通省, 2020)。

B社:ロボットアームで配筋作業を自動化

B社は、鉄筋工事を手掛ける専門工事会社です。同社は、ロボットアームを導入し、配筋作業の自動化に成功しました。

従来は、熟練工の手作業に頼っていた配筋作業。ロボットアームを導入したことで、作業時間が3割短縮。品質のバラつきも減少し、品質の安定につながっています(日経コンストラクション, 2021)。

C社:IoTで鋼材の調達を最適化

C社は、鉄骨工事を専門とする工事会社です。同社は、IoTセンサーを活用し、鋼材の調達を最適化しました。

プロジェクトごとに必要な鋼材をIoTセンサーで管理。リアルタイムで在庫状況を把握することで、過剰在庫を7割削減。また、配送トラックの位置情報を把握することで、現場での待ち時間を3割削減したそうです(建設ITワールド, 2022)。

これらの事例から分かるのは、省力化・省人化の取り組みが、着実に成果を上げ始めているということです。単なるコスト削減だけでなく、品質向上や工期短縮など、様々なメリットがあることが分かります。

建設DXは、まだ緒に就いたばかりです。今後、更なる技術の進歩と普及により、建設業界の省力化・省人化は加速していくことでしょう。

省力化・省人化の導入における課題

一方で、省力化・省人化の導入には、いくつかの課題もあります。ここでは、初期投資、業務プロセスとの統合、従業員の抵抗感の3つの課題について考えていきます。

初期投資コストと教育コストの負担

省力化・省人化を実現する技術の導入には、初期投資が必要です。ドローンや建設ロボット、AIシステムの導入コストは小さくありません。特に中小企業にとっては、大きな負担となります。

加えて、新しい技術を使いこなすための教育コストも必要です。従業員のスキル向上には、時間と費用がかかります。

こうしたコスト負担は、省力化・省人化の導入を躊躇させる要因の一つとなっています。

既存の業務プロセスとの統合

省力化・省人化の技術を導入しても、既存の業務プロセスとスムーズに統合できなければ、効果は限定的です。

例えば、ドローンで測量したデータを、既存の設計システムに取り込めなければ、活用は進みません。AIによる施工管理システムも、現場の作業員とのコミュニケーションがスムーズでなければ、十分に機能しません。

新しい技術と既存の業務プロセスをいかに融合させるか。これは、省力化・省人化を進める上での大きな課題と言えます。

技術に対する従業員の抵抗感

新しい技術の導入には、従業員の抵抗感もつきものです。特に建設業界は、長年、人の手によるアナログな作業が中心でした。急激なデジタル化に、戸惑う従業員も少なくありません。

「ロボットに仕事を奪われるのでは」「AIに指示されるのは嫌だ」など、新技術に対する拒否反応も予想されます。

省力化・省人化を進めるには、従業員の理解と協力が不可欠です。丁寧な説明とコミュニケーションを通じて、不安を払拭し、前向きな姿勢を引き出すことが肝要です。

私自身、建設DXの導入を手掛ける中で、これらの課題に直面してきました。特に、現場の従業員の理解を得ることの難しさは、痛感しています。

しかし、課題があるからこそ、戦略的な取り組みが重要なのです。従業員の声に耳を傾け、丁寧に向き合うことで、少しずつでも前に進むことができる。そう信じて、私は省力化・省人化の実現に向けて、歩みを進めています。

省力化・省人化がもたらす未来

省力化・省人化の取り組みが進むことで、建設業界はどのように変わっていくのでしょうか。ここでは、生産性の向上、技能労働者の負担軽減、建設業のイメージ刷新の3つの観点から、未来像を描いていきます。

生産性の向上と工期短縮

省力化・省人化による最大のメリットは、生産性の向上でしょう。人手不足を技術でカバーすることで、工期短縮と品質向上が実現します。

国土交通省は、2025年までに建設現場の生産性を2割向上させる目標を掲げています。その達成には、省力化・省人化の取り組みが不可欠です。生産性の向上は、建設業界の競争力強化につながります。

技能労働者の負担軽減と安全性向上

省力化・省人化は、技能労働者の負担軽減にも寄与します。重労働や危険作業から解放されることで、働く人の安全と健康が守られます。

また、熟練工の技能をAIやロボットが代替することで、技能継承の問題も緩和されるでしょう。ベテランの知見をデジタルデータ化し、若手に伝承することも可能になります。

省力化・省人化は、建設業の働き方を大きく変える可能性を秘めています。過酷な労働環境のイメージから脱却し、より魅力的な職場へと変わっていくことが期待されます。

建設業のイメージ刷新と人材確保

省力化・省人化は、建設業のイメージ刷新にも寄与します。最新技術を駆使する姿は、建設業のハイテク化を印象づけます。「きつい」「汚い」「危険」のイメージから、「かっこいい」「スマート」「安全」のイメージへ。そんな変化が、若者の建設業離れに歯止めをかける可能性があります。

実際、ドローンや建設ロボットに興味を持つ若者は増えています。彼らを惹きつけ、建設業界で活躍してもらうことが、人材確保の鍵を握ります。

BRANU株式会社は、こうした建設業のイメージ刷新にも取り組んでいます。同社が運営する「CAREECON Plus」には、建設現場のスマート化を紹介するコンテンツが豊富に掲載されています。建設業の魅力を発信することで、若手人材の獲得につなげているのです。(出典:BRANU株式会社(ブラニュー)

建設DXは、単なる省力化・省人化の手段ではありません。建設業の未来を切り拓く戦略的な取り組みなのです。

まとめ

建設業界における省力化・省人化の最前線について解説してきました。人口減少に伴う深刻な人手不足。その課題解決に向けて、ドローンやAI、ロボット、IoTなどの最新テクノロジーへの期待が高まっています。

省力化・省人化の取り組みは、着実に成果を上げ始めています。測量や検査の自動化、施工の自動化、資材管理の効率化など、各分野で生産性の向上が実現しつつあります。

一方で、初期投資の負担や既存業務との統合、従業員の抵抗感など、乗り越えるべき課題も少なくありません。省力化・省人化は、単なるテクノロジーの導入だけでは実現しません。経営層の強いリーダーシップの下、戦略的な取り組みが求められます。

省力化・省人化が進むことで、建設業界は大きく変わっていくでしょう。生産性の向上と工期短縮、技能労働者の負担軽減と安全性向上、そして建設業のイメージ刷新と人材確保。建設の未来は、確実に明るい方向に向かっています。

変革の先頭を走るのは、BRANU株式会社のような建設DXのスタートアップ企業かもしれません。彼らの革新的なサービスは、建設業界の可能性を大きく広げています。

建設DXによる省力化・省人化の波は、もはや避けられないものになりつつあります。この波に乗り、新しい建設業の姿を描いていく。それが、私たち建設業界に携わる者の使命だと感じています。

読者の皆さんも、ぜひ建設DXの可能性について考えてみてください。皆さんのアイデアが、建設業の未来を切り拓く原動力になるはずです。共に、省力化・省人化の実現に向けて歩んでいきましょう。